うーちゃんの贈り物
"もう忘れてるかもな"と思いながらも、はやる気持ちを抑えられずに急いでエレベーターを降りると、廊下の向こう側から聞き覚えのある可愛らしい声がした。
「あ、おばちゃーん」
声の主は私に向かって嬉しそうに勢いよく駆けてくる。その懐かしい姿に"大きくなったなぁ"と感慨にふける間もなく、うーちゃんは「大好きっ」と叫びながらぴょんと飛び上がって、両手両足で私のお腹にしがみついた。
「おばちゃんも大好きだよ」
覚えていてくれただけでも十分なのに、こんな史上最高のお出迎えをしてくれた五歳の少女を、私は両腕でぎゅっと抱き締めた。
一年八ヵ月前、うーちゃんのご両親は、ご契約済みのパネル工法の住宅に合う土地を探すために当社を訪れた。ご主人は個人事業主になって七年目 地方銀行から住宅ローンの承認を取りつけてはいたのだけれど、4%に近い高金利だったことが私の気にかかった。
「他の金融機関には無理だと言われて......仕方なく」
過去七年間の確定申告で過少申告ぎみなのが原因という。それ以上口を挟むべきかどうか、悩みながらも土地探しを始めたが、設計も間取りも動かせない住宅に合わせて土地を見つけるのはとても骨が折れた。でも、物件のご案内は私にとって、毎回待ち遠しいほどに楽しかった。当時三歳だったうーちゃんが一緒だったからだ。
うーちゃんは会う度にプレゼントをくれた。それは道に咲いていた小さな野花だったり、切ったメモ帳のお手紙だったり。
「おばちゃんへ。大好きだよ」と書かれたお手紙の幼い文字は、アニメキャラのシールでキレイに飾りつけられていた。娘というにはまだ小さすぎるし、孫というには早すぎる気もしたけど、目のなかに入れても痛くないとはこのことか、と思わず笑みがこぼれてしまう自分がいた。
ご案内を始めてから一ヵ月を過ぎた頃、ようやくパネル工法の住宅に合う土地が見つかった。しかし、ご両親はご契約を迷っているようだった。私は正直な気持ちをすべてお話することにした。
「やはり融資の金利が高すぎると思います。これから二年度分の確定申告で金利はもっと下げられるはずです。一年半ほど待ってみてはいかがですか?それにパネル工法の住宅も、同じ工法と予算で土地に合わせて設計や間取りが選べるハウスメーカーをご紹介できます。いろいろ融通も利きますので、良かったらご相談ください」
「......はい、考えてみます」
結局、ご両親は地方銀行の融資を見送って、土地探しは一年半後に持ち越すことになった。
「じゃあね、おばちゃん、またね」
最後の別れ際、うーちゃんの"またね"という言葉が心にしみた。
そうして今年の三月、私がひな祭りのお祝いにうーちゃんへ送ったお菓子のお礼の電話をご両親からいただいた。そのとき、さらに嬉しいお知らせがあったのだ。
「......来週、確定申告を済ませた後、住宅ローンとか、いろいろご相談したいのですが。......ハウスメーカーの方もご紹介いただけたらと思っています」
「はい、ありがとうございます」
本当に嬉しかった。ご両親が私のご提案を約二年越しで受け入れてくれたことも、うーちゃんにもう一度会えることも。
土地を探す前にハウスメーカーと住宅ローンの問題を解決する必要があった。まず、ご紹介したいハウスメーカーとご両親の顔合わせのアポを取ったが、私は急なご案内で後から合流することに。当日、ご案内を終えてハウスメーカーのオフィスへ急ぐ。まるで初めてのデートへ向かうような気持ちで、エレベーターに乗り込んだ。
「あ、おばちゃーん」
うーちゃんとの再会 そして「住まい」探しも再開された。
住宅ローンも都市銀行の承認を得られて、1%の前半の金利に落ち着くことができた。土地探しの方も三回目のご案内で駅から徒歩圏内、間口も広い理想的な土地が見つかった。ここまでうまく事が運ぶとは私も思っていなかった。
先日、間取りの打ち合わせのとき、うーちゃんが私の似顔絵をプレゼントしてくれた。自分でも恥ずかしくなるほど美人の私ではあるが、現実よりもうーちゃんの表現力を信じることにした(笑)。
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