人生でいちばん大きなお買い物
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大きなお買い物
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2016.05.23
わかる!な出来事
営業スタッフの思い

心のご褒美

♠「前職も不動産仲介だったようですが、お辞めになった理由は?」
♧「売上重視、数字偏重の経営方針がどうにも肌に合わなくて」
♠「当社はそうではない、と?」
♧「以前、お客様から御社が作っている冊子を見せてもらったことがあります。仲介の営業とお客様のふれあいを描いた小説、あれを読んだとき、この会社で働いてみたいな、と思ったのです」
♠「それは嬉しいお話ですね。仲介の仕事はお好きですか?」
♧「好きですね。もちろん楽しいことばかりではありませんが、他の仕事にはない喜びを感じることができます。もう十年以上続けていますけどまったく飽きません」
♠「なるほど。では、今おっしゃっていた他の仕事にはない喜びを感じたときの、なにか具体的なエピソードはありますか?」
♧「あ、はい......うん、やはり初契約ですね。実は最初、この仕事は自分には向いていないと思っていました。入社して三ヵ月、いろんなお客様とお会いして物件を紹介したり現地へ案内したり、自分なりに考えて必死にやっていたのですが、一本の契約も取れず、自信もやる気も失ってしまって」
♠「そういうときもありますね」
♧「当時の私は結婚したばかりで妻も身重でしたから、自分がしっかりしなきゃ、と焦る気持ちもあって仕事を変えようかとも考えました。でも、妻に怒られちゃって」
♠「なにを怒られたのですか?」
♧「あきらめるのが早い、まだたったの三ヵ月、辞めるのはいつだってできるじゃないの、と」
♠「うん、いい奥様ですね」
♧「ありがとうございます。私もそう思います(笑)」
♠「どうぞ続けてください」
♧「あ、はい。妻の叱咤激励でとにかくやるだけやろうと思い直して、すでに何度かお会いしているご夫婦の次のご案内前日、妻と一緒にご紹介するすべての物件の下見に行きました。駅から物件まで徒歩で何度も往復しながら周辺環境をチェックして地図にフセンを貼ったり、間取りや仕様を確認しながらどの物件がご希望や条件に合っているか妻と話し合ったりと、できることはやり尽くして......。ところが当日の朝、ご主人から"今日はお勧めの物件を一軒だけ見せてください"と言われて」
♠「一軒だけ? すべての物件を完璧に下見していたのに......」
♧「でも、完璧に下見をしていたからこそ、必ず満足していただける一軒を選ぶことができたのだと思います。しかも、さらに驚いたことに、ご夫婦はご案内した物件の外観を見ただけで "ここにします"と決めてしまったのです」
♠「え、内覧せずに、ですか?」
♧「私も"室内はご覧にならなくていいのですか?"と何度もお訊きしたのですが"あなたが一番にお勧めしてくれる物件が良いのです"と奥様は微笑むばかりで」
♠「で、ご契約されたのですか?」
♧「はい。初契約は嬉しかったのですが、私も気になって契約当日に"どうして内覧せずに決めたのですか?"と訊いたら、ご主人が笑って種を明かしてくれました」
♠「どんな種明かしですか?」
♧「私と妻が、ああでもないこうでもない、と地図を広げて話し合いながら物件を下見している姿を奥様が偶然見かけたのだそうです。"半年近く家を探してきましたけれど、私たちのためにこんなに熱心になってくれた方は初めてでした"とご主人は話してくれました」
♠「あなたの熱意をちゃんと見ていてくれたのですね」
♧「そうなんです。私は初契約よりも、ご夫婦のお気持ちが......本当に、心の底からありがたくて嬉しくて。もしお二人と出会えていなかったら、私はこの仕事を好きにはなれなかったでしょうし、今ここにはいなかったと思います」
♠「すばらしい体験ですね」
♧「初契約の日の夜、その話を聞いた妻が"いいわねぇ、そんな心のご褒美がもらえる仕事って、この世の中にそんなにないわよ"と」
♠「心のご褒美......ですか?」
♧「はい。今でも私が上機嫌で帰宅すると妻は言うんです。"ねぇ、今日はどんな心のご褒美をもらったの?私にもちょうだいよ"ってね」
♠「いいですね。十年間であなたがもらった心のご褒美をもっと聞かせていただきたいですね。それで、いつから出社できますか?」
♧「はい喜んで......え?」