人生でいちばん大きなお買い物
人生でいちばん
大きなお買い物
STORY
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2016.05.23
心あたたまるお話
お客様の気持ち

待ち遠しい日曜日

 わたしは小学四年、もうすぐ十才になる女の子です。
 六才下で保育園に通ってる弟がいるけど、泣き虫で本当に世話が焼ける。弟が泣き出すとママは「お姉ちゃんを見てみなさい。泣いたりしてないでしょ」といつも言うの。そうなの、わたしはお姉ちゃんなので弟みたいに泣いてママやパパを困らせたりしちゃいけないのです。
 今は弟と同じ部屋だけど、十才になるのだから自分のお部屋がほしいなぁ、と思っていたら、ママが「新しいお家には二人とも自分のお部屋があるのよ」と言ったので、うれしくなったけど、弟がわたしより六年も早く自分のお部屋を持つことにちょっとムカついたのはママには秘密です。そんなことを知ったら、きっとママが困ってしまうから。わたしはママとパパが大好きなので、ママとパパを困らせるヤツが大嫌い。だから泣いてる弟は嫌いで、泣いてない弟は好き。
 でね、人生でいちばんうれしかったのは、ママとパパの子供になれたことだと思うの。
 

 
 日曜日はよく新しいお家探しにみんなでお出かけするようになって、わたしも弟も最初のうちは楽しみにしてたけど、途中からイヤになったの。きっとあのスーツのおじさんがイケナイんだ。
 
 新しいお家になるかもしれないお家を見たとき「もう他にはありません」とおじさんが言うとママとパパは困った顔をしてたし、おじさんの会社でも「早くしないとなくなりますよ」と言われてママとパパは本当に困っていた。
 それに、おじさんの会社でわたしと弟は長い間じっと座ってないといけないから面白くないし、おじさんはママとパパがいないとき「このお家が好きってパパに言いなさい」とわたしにウソをつかせようとするから絶対に悪い大人だと思うし、ママとパパを困らせるから大嫌いです。
 お出かけした日曜日の夜はママとパパがケンカをすることが多くなって、この間なんか「家を買うのはもうやめた!」とパパが大声を出してお皿を割って、ママがしくしく泣き始めると、弟もわんわん泣き出しました。
 わたしも泣きたかったけど、お姉ちゃんなので泣くのはガマンして、新しいお家も自分のお部屋もいらないからママとパパが前のようにラブラブになるようにってお祈りをしたの。
 次の日曜日もお出かけすることになって、弟がまた泣き出しそうでわたしは気が気じゃなかったけど、おじさんの会社じゃない会社でホッとしました。スーツのお兄さんがわたしと弟を見て「こんにちは」と笑ったので、お兄さんがちょっと好きになったかも。
 お兄さんがママとパパとお話しているとき、わたしと弟はキッズスペースという場所で、受付のお姉さんと積み木をしたりアニメのDVDを見たりして楽しかったし、お姉さんもやさしいから好きです。新しいお家になるかもしれないお家をママとパパが見ているときも、お兄さんはわたしと弟といっぱい遊んでくれるし、お兄さんがなにか言ってもママとパパは困った顔をしないでうれしそうに笑っているので、わたしはお兄さんがもっと好きになりました。
 わたしと弟はキッズスペースで遊ぶのがいつも楽しみだったし、ママとパパは前よりラブラブでケンカもしなくなったし、わたしは日曜日がすごく待ち遠しくて、土曜日の夜はワクワクだけど、日曜日の夜はまた一週間も待たなければならないことを思って、ちょっとさみしくなる。弟が「早く日曜日にならないかなぁ」とうれしそうに言ったりすると"悩みがなくていいわね"と心の中で思って、逆にため息が出たりするの。
 新しいお家が決まって契約というのをしにお兄さんの会社に行ったとき、ママとパパがお兄さんに「もう会えないと思うとさみしいですね」と言ったので、わたしはわたしが自分のお部屋を持つと日曜日のお出かけがなくなってしまうんだとわかって、目の前が真っ暗になるほどショックだったの。
 

 
 新しいお家にお引越しして最初の日曜日の朝、弟が「お出かけしたい」とわんわん泣き出して、ママが「お姉ちゃんを見てみなさい。泣いたりしてないでしょ」と言ったとき、わたしは胸が破れそうになって「もうお姉ちゃんはやめるから、お兄さんの所に遊びに行きたいの!」と大声を出したら、鼻の奥がツンとしてママとパパと弟の姿が水でにじんだようになって、やがて見えなくなった。